第51話 仮面の下の笑顔
ん・・・何であたしが腹を立ててんのよ・・・
ふと浮んだ疑問についてチャイムは黙って考え込む。
・・・・・・・・・・・無い無い無い。それは無い。
何を考えたのか、誰にともなくぱたぱたと手と首を横に振り、
食べかけのパンに勢い良くかじり付いた。
第54話 全ては舞台の上に
レイチェルの操る鎖は意志を持つ蛇の様に、
地面を、宙を這い回り、二人を囲む刺客たちを翻弄する。
ツヴァイに打たれた薬のせいで魔道が使えなくとも、
レイチェルは十分にマスカレイドの擁す精鋭の刺客達と渡り合っていた。
第55話 ふたりの復讐者
真っ白になっていたトキの頭が、少しずつ動き始める。
あぁ、と、トキは声を漏らした。
「そういう事だったんですか。そういう、事だったんですか・・・・」
天井を仰ぎ、うわ言のように呟く。
第58話 双子の夢 -後編-
感情の無い兵器として育てられたトラキアはアリシアと出会い、人としてのあらゆる感情を教えられた。その中でも、この感情だけはいまひとつ理解が出来なかった。
しかし、ようやくそれが理解出来た。
第61話 Die Game
死の匂いをこれほど間近に感じた事は無かった。
しかし、トキは自分でも驚くほど落ち着いていた。
自分の腕と、何よりもレイチェルを信頼していたから。
そして、リボルバーの引き金を、そっと引いた。
第62話 道化師達の末路
「あなたたち人間だって、サソリと蜘蛛を喧嘩させて楽しんでるじゃない。それと同じよ」
エアニスが剣を構え直す。
「知ってるか? サソリや蛇に殺された人間は沢山居るんだぞ?」
「ふうん、そうなの。それは間抜けね」
第63話 追憶からの手紙
トキにはチャイムの驚愕の表情の意味が理解出来ず、隣のエアニスにいぶかしげな表情を向ける。
人より遥かに耳の良いエアニスはレイチェルの呟きを拾っていた。
だからエアニスは、トキに向けて親指を立てた。
言葉は、必要ない。
第65話 全てを知る者
胸を反らす様に椅子にもたれかかり、ティアドラは煙草を咥えて火をつける。足と腕を組み、ゆっくりと紫煙を吐き出す。腕を組んでいるせいか、もともと目立つ胸元が強調される。煙草を指で挟み、ゆっくりと灰皿に灰を落とす仕草も、いちいち色っぽい。
チャイムの大人の女性像を絵に描いたかのような姿だった。
第68話 盤上の駒遊び
「彼はヴァルハラ兵でありながらも、軍の暴虐的な行為に反発を感じていたそうです・・・
だから、逃げ出した私を守る為に、仲間を撃ってまでここまで一緒に逃げてっ・・・」
アイシャは俯き、嗚咽を漏らす。
第71話 色無き狭間 淵の世界
スノーモービルは雪を掻き毟るように急斜面を登り、
落ちるようにして谷を下る。
タンデムシートに座るチャイムは振り落とされないように、
エアニスの背中とシートにがっちりと掴まる。
「ねぇ、エアニス」
「あんま喋るな、舌噛むぞ」
第72話 ドラゴン
不意に、人の頭ほどもある黒竜の瞳と、目が合った。
エアニスには爬虫類の表情など読めないが、
その瞳はエアニスを睨み続けているような見えた。
「・・・・くそっ」
諦めが、エアニスの闘争心に影を落とす。
第75話 私の知らない優しい人達
「銀の髪も綺麗だけど、あたしはやっぱ、あの髪色のエアニスが落ち着くかな?」
「・・・そっか。ありがとな」
はにかみながら笑いかけるチャイムに、チャイムは照れ臭そうに言った。
第76話 未来を紡ぐそれぞれの道
真っ黒な夜空に、明るい月が浮かんでいる。
月明りを照り返しキラキラと輝く草原を、エアニスは琥珀の髪を揺らしながら歩く。
エアニスの中で、ようやくあの戦争が終わったような気がした。